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2004/09/10

ニッケル鉱山と先住民族(グァテマラ)

ニッケル採掘関連

グァテマラ、イサバル県エル・エストールでは1960年代からニッケル鉱山の開発が進められてきた。当時エル・エストールで操業していたのはインコ社というカナダ資本の配下にあったエクスミバル社という鉱山会社である。エクスミバル社は、土地囲い込み、汚染された鉱滓の放置、人権侵害など様々な問題を引き起こしたまま1981年に操業を停止する。

 しかし、近年ニッケルなど稀少な金属資源への需要が拡大し、ニッケル価格も高騰したことから、再びこの地域に鉱山会社の目が向きつつある。

1)ニッケルと私たち

独立行政法人である石油天然ガス・金属鉱物資源機構のホームページによると、全世界でのニッケルの年間生産量は114万トンのうち、日本は18万トン、約15%を消費しており、その全てを輸入に頼っている。またその採掘可能年数は約40年と推定されている。「私たちの豊かな生活は、金属資源が安定的に供給され、産業活動が維持されることによって約束されています」、この金属鉱物資源機構のホームページ*1が伝える、この事実から私たちは逃れることはできない。ニッケルの消費量の65%はステンレスの原料として使われているが、それ以外にも、ニッケルは、充電池、蓄電地や携帯電話のアンテナなどにも使われている。
 「環境に優しく」、電気自動車や充電池を使おうとした瞬間から、私たちはグァテマラのケクチ民族の環境へ心を寄せる必要が出てくるのである。もちろん、グァテマラ以外でも世界中で稀少金属の採掘が様々な問題を引き起こしていることは言うまでもないが。  

2)エル・エストールにおけるニッケル開発の歴史*2 

 エル・エストールにおけるニッケル鉱山開発は、グァテマラ軍政下に不透明な形で進められた。カナダ資本であるインコ社(Inco Ltd)は1960年代に米国系のハンナ鉱山会社(Hanna Mining Company)と提携してグァテマラに参入し、エクスミバル社(Exploraciones y Explotaciones Mineras Izabal, S.A. (Exmibal))を設立する。1965年にはインコ社の役員自らが草稿を作成したといわれる鉱山法が公布され、その数ヶ月後には、この新鉱山法のもとでの、最初の採掘権の認可を受けるのであった。
 この最初の認可がエル・エストールにおけるエクスミバル社である。エクスミバル社は365平方キロおよそ、エル・エストール市のほぼ1割に当たる面積の40年にわたる採掘権を認可された。しかしこの採掘権契約は、エクスミバル社に不当に利益を提供するものであり、政府との汚職が追求されることとなる。
 内戦のさなかに、サンカルロス大学ではこの契約に関する特別調査委員会を設置し調査を開始したが、1970年、この委員会のメンバーであった大学教員のフリオ・カメイ・エレーラは殺害され、同僚のアルフォンソ・バウエル・パイスもマシンガンでの銃撃で重傷を負ったものの一命をとりとめた。 *3
1971年に、グァテマラ政府とエクスミバル社は正式に採掘に関する合意に至り、エクスミバル社は操業を開始する。しかしその囲い込んだ土地に対する補償もなされず、グァテマラ政府に税金が納められることもなかったという。
1981年にニッケル価格の低迷から操業を停止したエクスミバル社は、地域に不当に囲い込まれた土地と、どのように処理されたのかもわからない廃棄物を地域に残して姿を消した。

3)ニッケル鉱山の再開発の危険

 この地域のニッケル鉱山の再開発に最初に触手を伸ばしたのは実は日本企業であったのかもしれない。内戦が終結する前の1993年、既にインコ社と住友金属鉱山、東京ニッケル社(インコ東京ニッケル社であろうと思われる)は実現可能性調査を実施している。

 1998年、カナダ系のチェスバー・リソーシーズ社(Chesbar Resources Inc.)はグァテマラ資本であるマヤ・アメリカ鉱業(Minera Mayamerica S.A)との資本提携を元に、グァテマラでの地下資源探査を開始する。その後、このマヤ
・アメリカ鉱業のを完全に配下に収め、グァテマラでの地下資源開発にさらに重点を置いていると思われる。このチェスバー・リソーシーズ社が2003年にジャガー・ニッケル社(Jaguar Nickel inc.)という、「会社の新しい焦点をよりよく反映した」! 企業名に改名する。
 このジャガー社は既にエクスミバル社の採掘地域の周辺8カ所に、1998年頃から、新鉱山法に基づいて探査のための認可を受けている。(前身の会社としての許可も含む)総面積は約300平方キロに及んでおり、既に3カ所で積極的な探査が進められているようである。*4
 こうした動きに加えて、インコ社の所有するエクスミバル社のニッケル鉱山再開発がもくろまれているのである。既に言及したように、インコ社と住友金属鉱山は1993年に実現可能性調査を行っている。その後、2003年にジオスター社(Geostar Metals Inc)はエクシミバル社の鉱山に関して、AMEC社に調査を委託する。しかしその調査が同年9月にはスカイ・リソーシーズ社(Skye Resources Inc.)に移管され、2003年12月よりスカイ・リソーシーズ社はインコ社と採掘権譲渡に関して独占的な交渉を続けている。
 現在スカイ・リソーシーズ社とインコ社は、採掘権に関わるいくつかの問題に関してグァテマラ政府との協議を待っているようである。*5「グァテマラ政府、インコ社、スカイ・リソース社はみな、この採掘権供与がグァテマラ政府の要件を満たし、周辺コミュニティの必要を充足し、高い環境基準を達成することを目指している」といっているが、鉱山の再開発、またこうした話題がそもそも先住民族コミュニティの協議の対象となっていないことなどに、強い反発がある。


4)鉱山開発に反対するマヤ先住民族の動き

 エクスミバル社が操業していた当時も、地域の先住民族による反対運動は展開されたが、武力で弾圧されるという経験をしてきた。しかし近年再びこの地域の鉱山再開発の動きが進む中で地域住民からの反対運動も広がっている。その中心となっているのは、 AEPDI( Asociacion Estorena Para el Desarrollo Integral : 統合的開発のためのエストール住民アソシエーション)である。

 この住民組織は昨年、以下のような声明を発表している。
1) 鉱山採掘許可に関する断固たる拒否。これまでこうした政府による承認は一方的に行われ、コミュニティの住民に情報開示されたことはない。またこのような活動は、我々の生活、文化そして全ての自然を脅かすものであり、承認できるものではない。
2) 我々、ケクチ民族は、自然、人そして全体との均衡と尊重に基づく独自の哲学と原則を有しており、大地を傷つけ、水と空気を汚染し、山を破壊し、野生生物を絶滅に追いやるようなことは、大量虐殺そして民族虐殺の政策と戦略の継続だと考える。なぜなら全ての自然がわれわれの生活の一部であるからである。
3) エクシミバル社の操業時には、水や空気を汚染し、また誘拐や虐殺、先住民族コミュニティの強制退去など我々を抑圧してきたことを告発する。
4) インコ社の鉱山採掘の再開は、この地域に居住する先住民族の集団的な権利への侵害であり、和平協定、ILO169号条約、及びその他の国内あるいは国際的な条約や合意に違反するものである。

5)終わりに 

 こうしたなか、2003年12月に、ブエルト・バリオスの人権擁護官が、鉱山採掘権及び探査に関わる承認をILO169号条約に違反するので停止すること、との通達を出したことは重要な一歩である。*6しかし人権擁護事務所の通達の後、政府が鉱山開発の許認可を停止しているのかどうかも明確な情報はない。
 そもそも1996年に169号条約に批准したにもかかわらず、1997年に公布された鉱山法に169号条約の規定に関連する条項は一つもないことは大きな問題であるが、この新しい鉱山法に基づいて数百の採掘及び探査に関する認可が行われているのである。もちろんILO169号条約の規定に限界がないわけではない。
しかし最低限、この条約に則って、鉱山法の見直しなどを行うことが急務であろう。
 
 国際社会からは、地域との組織の連携を高めつつ、積極的に関係機関に働きかけていくことが重要であろう。
 
 青西
 
 *1 石油天然ガス・金属鉱物資源機構「私たちの暮らしに欠かせない金属」
 
  http://www.jogmec.go.jp/mmaj/page/html/gaiyou/kurashi-kinzoku.html

*2 主として”Canadian Mining Companies Violating Indigenous Rights in Guatemala The Case of Inco in El Estor”   
 Andy Astritis, Rights Action[1] October 22, 2003 - No. 193 を参考にする。
 出典はRigths Action のWebではなく、以下のWebである。
http://www.cpcml.ca/tmld/D33193.htm

*3 Organizing and Repression In the University of San Carlos, Guatemala, 1944 to 1996
Paul Kobrak 6. 1963-72: Militarization and the University
http://shr.aaas.org/guatemala/ciidh/org_rep/english/part2_6.html
*4 ジャガー社ホームページによる http://www.jaguarnickel.com/index2.htm  
いくつかの探査地域はアルタベラパス県にもまたがっている。

*5 スカイ・リソーシーズ社のホームページ。交渉に関わるニュースリリースと、プロジェクトの調査報告が入手できる。
http://www.skyeresources.com/news/2004/index.php/str=10,mod=cnt,act=cnt,id=29
http://www.skyeresources.com/_resources/Projects/Dec%202%202003%
20Technical%20Report%20pdf.pdf

*6  ILO 169号条約 「先住民族及び種族民に関わる条約」では第15条にて
1)当該民族の土地に属する天然資源に対するこれらの者の権利は特別に補償されるべきであること。これらの権利には、当該資源の利用、管理及び保全に対するこれら民族の参加の権利を含む
2)国が鉱物または地下の資源の所有権、もしくは土地に属するその他の資源についての権利を保有する場合には、政府は、これらの民族の土地に属する当該資源の探査もしくは開発のための計画に着手しまたは認可する前に、これらの者の利益が損なわれるかどうか、またどの程度に損なわれるかを確認することを目的として、これらの民族と協議するための手続きを確立し、維持しなければならない。(後略)


その他 OXFAM AMERICAのページでも、現地の組織であるAEPDIの情報にアクセスできる。
http://www.oxfamamerica.org/advocacy/art7269.html
http://www.oxfamamerica.org/advocacy/art5304.html

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