« 自然保護区と先住民族の取り組み(グアテマラ)1 | トップページ | 自然保護区と先住民族の取り組み(グアテマラ)3 »

2007/10/05

自然保護区と先住民族の取り組み(グアテマラ)2

 自然保護区をめぐる先住民族の取り組み 2

<イシル生物圏ヴィシス・カバ保護区の事例>
キチェ県北部のネバ・チャフル・コッツアルの三つの自治体はイシル語を話す先住民族が居住している地域である。この中のチャフル(chajul)に位置する「イシル生物圏ヴィシス・カバ(Visis Caba)保護区」はその設立以来、地域内での対立・紛争が続いている保護区である。
この保護区は1997年7月に政令40-97によって「イシル生物圏 ヴィシス・カバ保護区」として制定されたものである。しかしこの保護区の設定は地域住民の十分な同意を得ないままに、域外の環境保護団体と地域の一アソシエーションを中心に進められたために、地域の住民の中に対立を引き起こすものとなった。

 もともとヴィシス・カバはチャフルの自治体所有の共有地であり、また伝統的な聖地でもあった。ヴィシス・カバにあるフイル山(Cerro de Juil)はその中でも重要な聖地である。また地域住民はこの共有地でカゴや蔓細工を行うための材料を採集しつつ、長年にわたって森林を守ってきたのである。急峻な地形にも助けられ、豊かな森林以外にもジャガーやピューマなども生息しているという。
 その一方、この地域はグアテマラ内戦の中ですさまじい弾圧を受けた地域でもある。1975年のグアテマラ貧民軍(EGP) によるチャフル北部のペルラ農園での農園主殺害以降、この地域では地域のコミュニティに対する激しい弾圧が繰り広げられ、弾圧から逃れた住民が山中にCPR(抵抗の共同体)を組織し、集団で軍の弾圧から逃れていた。

 1989年に保護区法(4-89)が制定された時点で、既にこの地域は将来的な保護区の候補地として挙げられていた。1995年頃から外部の環境保護活動家が保護区設置のための動きを進め、地域の開発事業や有機コーヒー生産を行っていたチャフル住民アソシエーション(Asociación Chajulense)や自治体の首長マヌエル・アシコナ(Manuel Asicona)を巻き込んでいく。そして1996年にCONAPに対して自治体当局、住民アソシエーション、地域コミティ」の名前で保護区設置の要請がだされる。それに並行する形で環境保護団体であるマードレ・セルバ(Madre Selva)が技術報告書を作成し、その中でチャフル住民アソシエーションを管理事業者とすることにコンセンサスがあるとして推薦している。
 1997年7月、法40-97によって、保護区設置法が公布され、正式にヴィシス・カバ保護区設置が決まるとともに、その中の第5条でチャフル住民アソシエーションが管理業務者として指定されることも規定された。
しかしこの保護区設置は、地域で活動していた先住民族の権利擁護組織であるデフェンソリア・マヤなどをはじめとする地域住民から大きな反発を受けることとなる。大きな問題は、この保護区の設定プロセスにおいて住民側のコンセンサスが欠如し、住民に情報がいかないままに保護区が法的に制定されたという点である。こうした情報の欠如もあいまって、このヴィシス・カバの共有地が国に売られた、外国の企業に売られたという噂も広がっていたようである。
 またこの反発には、歴史的に存在する国家機関への不信感、地域の共有地に対する外部からのルールの押し付け、利用してきた自然資源へのアクセスが不可能になる可能性があること、更には内戦時の避難民の土地確保問題と共有地からの排斥を狙う地域住民との利害の対立など様々な要因が存在していた。
 保護区設置そしてそれを進めた自治体に対する反対運動がふくれあがる中で、1997年12月には管理業務者への支援機関である「地域技術審議会」にコミュニティ代表、デフェンソリア・マヤ、国内難民委員会を含めるという法改正が行われた。しかし自治体との対立は続き、また国の担当機関である保護区管理審議会(CONAP)も地域への担当者の配置をあきらめることとなった。
こうしてCONAPも実質的にはこの地域を保護区としての管理することを諦めることとなり、またチャフル住民アソシエーションも現在は保護区の件には関与していない。
 
 -現在の動き-
 2年ほど前から環境法・社会アクションセンター(CALAS)が新しくこの地域での活動を展開しつつある。地域住民に対して保護区を押し付けるのではなく、地域住民主導で保護区について考え、判断していくための情報を提供し、集まりを調整していくファシリテーターとしての役割に専念している。「保護区」という用語の使用も避け、まず地域住民主導のワークショップで、既存の規範の把握・共有を行うとともに、保護区法のイシル語への翻訳も進めている。
 地域の言語で情報を提供していくこと、考え、意見交換を行う場を組織すること、その上で、住民主体で方向性を定めていくことを目指している。こうした、言ってみれば当たり前の作業がやっと前進しつつある。また「ドナーの時間」ではなく、地域の時間を見据えて、10年がかりで活動を進めていこうという方針を持っている。
 またCALASとしては保護区法の改正のためのロビーイングを行い、管理カテゴリーに「共有管理地区」という定義を入れていく方向を目指している。これによって地域住民主導の自然保護区設置に向けての法的裏付けを固めていく方向である。

注)この報告は現地での聞き取りに加え、Bettina Durocher,Los Dos Derechos de La Tierra: La Cuestion Agraria en el Pais Ixil,2002 も参考にした。

|

« 自然保護区と先住民族の取り組み(グアテマラ)1 | トップページ | 自然保護区と先住民族の取り組み(グアテマラ)3 »

グアテマラ」カテゴリの記事

先住民族」カテゴリの記事

環境」カテゴリの記事

自然保護区」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/50657/16665602

この記事へのトラックバック一覧です: 自然保護区と先住民族の取り組み(グアテマラ)2:

» 自然保護区と農民 /歪められた現地報道 [開発と権利のための行動センター]
 自然保護区と農民 /歪められた現地報道  グアテマラのイサバル県で、農民リーダ [続きを読む]

受信: 2008/03/26 10:44

« 自然保護区と先住民族の取り組み(グアテマラ)1 | トップページ | 自然保護区と先住民族の取り組み(グアテマラ)3 »