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2008/11/12

クリーン開発メカニズム(CDM)と水力発電ダム建設-中南米を事例に-

 <はじめに>
クリーン開発メカニズム(CDM)に含まれる水力発電プロジェクトの問題については、これまでもしばしば取り上げられていて、別に目新しい話ではないようです。[1]しかし既にこのブログでも取り上げたように、現在進行形で、CDMの登録を求めるダム開発が地域住民に大きな影響を引き起こしていることが伝えられています。[2]
  そこで少し長くなりますが、CDMについての概要と水力発電ダムについて整理してみたいと思います。

[1]http://www.eic.or.jp/event/?act=view&serial=2562
   http://www.foejapan.org/cgi-bin/climate/doc/030314.html
 望ましくは講演会の案内ではなく、報告のサマリーを、また提言書だけではなく、現場の声をモニタリングして公表し続けていくことが重要だと思うのですが、難しいのでしょう。
[2]「きれいな開発」の名で資金を探すダム建設が世界遺産を脅かす
  http://cade.cocolog-nifty.com/ao/2008/09/post-8dbb.html
  国連特別報告官、ダム開発に脅かされるパナマの先住民族に懸念を表明
  http://cade.cocolog-nifty.com/ao/2008/08/post_e617.html

<クリーン開発メカニズム:CDM>
 地球温暖化対策に対する取り組みの一つとして、「京都メカニズム」というものが存在します。これは1997年に京都市で開催された国連気候変動枠組条約第3回締約国会議で採択された「京都議定書」において定められたもので、温室効果ガス削減を進めるためにいくつかの経済的な仕組みを定めています。[3]
 日本などの先進国が、それぞれの国に定められた温室効果ガスの排出量削減のための数値目標を達成できないことを想定した上で、開発途上国などにおける削減への取り組みによって相殺しようとするものです。
 そうした仕組みの一つとしてクリーン開発メカニズム(CDM)があります。これは先進国と途上国が共同で事業を実施し、その削減分を投資国(先進国)が自国の目標達成に利用できる制度です。実際にはここで得られるCER(Certified Emission Reduction ) と呼ばれる排出削減分に基づくクレジットは、国際的に取引されるものとなりますので、プロジェクトの投資国だけではなく、温室効果ガスの目標値を達成できない国にとっては、どこのCDMも自国の対策の不足分とつながる可能性があります。
 ですから、次のように言えるかと思います。

「世界中におけるCDMプロジェクトは、全ての潜在的な購入者/消費者と結びついています。また私たち自身が、私たちの税金で、購入することを前提に開発が進められていると考えれば、私たち自身がプロジェクトに対する重い責任を有すると考えることができます。」

<CDMプロジェクトの内訳>
 

 どのような国でCDMプロジェクトが登録されているかを見てみます。2008年11月10日のデータによると1197件中、インドが360、中国 289、ブラジル 146、メキシコ 107 と続いています。次にプロジェクトの中身を見てみますと、エネルギー産業というのが56%を占めています。[4]
 このうちのエネルギー産業には水力発電や風力発電、バイオマス発電などが含まれています。
 例えば中国では今年の8月22日の段階で国連CDM理事会に登録されているプロジェクト数256のうち、100が水力発電、69が風力発電となっています。[5]

[3]京都メカニズムに関する説明はこちら  
http://www.kyomecha.org/index.html
[4]表及び数字は次のサイトより        
http://www.kyomecha.org/graph/graph_of_CDMJI.php
[5] http://enviroscope.iges.or.jp/modules/envirolib/upload/985/attach/china.pdf

<中南米の状況>
 中南米におけるCDMの動きを見ると次のようになっています。
 中南米における登録済みCDMのうち、ブラジル、メキシコの二ヶ国で約67%を占め、その後にチリ、アルゼンチンと続いています。プロジェクトの分野ではエネルギー産業が150、うち水力発電関連が78となっています。水力発電関連が全プロジェクトの20%を占めていることとなります。[6]この水力発電関連の中には、既存の水路利用の発電や既存の水力発電施設の能力改善なども含まれていますが、発電用ダムを造るものも含まれています。
 「先進国は、CDMという名称で、開発途上国でダム造りをせっせと進めているのです」。日本でも次のような資料からその動きを知ることができます。[7]


[6] 次のサイトの11月4日付けデータより作成  
http://www.kyomecha.org/List_of_registered_CDM.php
[7]地球温暖化防止に向けた水力発電によるCDM(クリーン開発メカニズム)事業の着実な推進
 現行国内対策だけでは、京都議定書の目標達成が困難な状況にあり、補足的な仕組みである京都メカニズムの積極的な活用が必要とされている。この中で、水力発電によるCDMは環境にやさしく、わが国の高度で豊富な水力発電技術を活用できるメリットがある。「水力開発の促進、既設水力の有効利用に向けての提言」財団法人新エネルギー財団
  http://www.nedo.go.jp/nedata/17fy/10/a/0010a001.html
  Jパワー コロンビア国水力CDMプロジェクトが国連CDM理事会に登録
  http://www.jpower.co.jp/news_release/news070116.html

<エクアドルの事例>
 ここではエクアドルを事例に、インターネットのみの情報で少し調べてみました。


 例えばエクアドルにおけるプロジェクトで、既にCDM登録済みの12のうち、水力発電関連は半分を占めています。登録されているということは、きっと社会的・環境的にも大きな問題はないと評価されたのであろうと思いますし、プロジェクト・デザイン書でも環境や社会への影響はほとんどないと記されています。
 しかしインターネットで調べる範囲においても、この中のいくつかのプロジェクトに対して反対運動が存在すること、あるいはしたことがわかります。把握できた範囲では、Abanico(アバニコ)水力発電プロジェクト、San Jose del Tambo(サン・ホセ・デル・タンボ)水力発電プロジェクト、Sibimbe(シビンベ)水力発電プロジェクトに対して反対運動があったことががわかりました。[8]
 その一方で気候変動枠組条約のサイトからアクセスできるアバニコ水力発電プロジェクトのモニタリング報告書においては、コミュニティでのプロジェクト実施には触れていますが、反対運動には一切触れていなません。

[8]水力発電計画に対する抗議運動関連サイト
アバニコ水力発電
http://www.pcmle.org/EM/article.php3?id_article=869
http://www.surysur.net/?q=node/2862
サン・ホセ・デル・タンボ水力発電
http://ecuador.indymedia.org/en/2007/06/20222.shtml
http://www.redlar.org/noticias/2007/11/6/Comunicados/no-a-la-represa-San-Jose-del-Tambo/
http://news.infoshop.org/article.php?story=20061113124808189
シビンベ水力発電
 http://www.accionecologica.org/descargas/alertas/otros/alerta%2086.doc


<私たちの社会的責任> 
 石油に依存しない社会を考えたときに、発電ダムを全面的に否定することは難しいと思います。しかし、自分たちの排出する温室効果ガスの穴埋めに、どこか知らない土地にダムを造っているのだとすれば、少なくとも私たちはそのことをちゃんと知るべきではないでしょうか。
 国内で石油を使い続け、温室効果ガスの削減ができない中で、国外でダム建設を進めることは倫理的に正しい判断なのでしょうか?本来、自国にダムを造って、痛みを自ら感じるべきでしょうか。海外に出て行けば、国内でダム開発をするよりコストが安いというのが理由であれば、金の力で地域の人々の、環境への権利や生活への権利を踏みにじっているだけかもしれないのです。
 もちろん、このダム建設の進展には別の要因もあります。開発途上国においても電力需要が広がり、発電ダムが必要とされているのです。つまりどうせ造られるダムなのだという考え方です。そこにCDMというインセンティブを加えて、石油火力などから水力への移行が促進されていると考えられます。
  そこで、こうしたダム建設はそもそも温暖化防止につながっているのか、という疑問が出てきます。日本国内では削減できないから海外でCDMを実施することとなります。そして海外では水力発電事業を進めることで拡大する電力需要に対応し、さらには電力供給に余裕ができれば、電力需要の大きい産業振興も可能になります。そもそも産業向けあるいは輸出向けの電力生産として計画されているダム計画にCDMを利用しているケースもあります。
 石油火力発電が広がったかもしれない未来と較べれば、削減されているのかもしれませんが、実際には温室効果ガスが削減されることはありません。開発途上国における温室効果ガスの排出量が想定よりも緩やかに増加するであろう、という成果にとどまります。
 
<知らなくていいのでしょうか>
 市場メカニズムを利用することで、効率的に温暖化防止が実現できると安易に考えるのではなく、市場メカニズムを利用することで、問題は拡散し、私たちの目の届かないところまで広がり、結局のところは力の弱いところに歪みが押しつけられている危険性があります。市場メカニズムは誰にとっても平等に働くわけなどなく、例えば環境影響評価が甘いとか、補償額が安くていいとか、そういう「低コスト」な地域にプロジェクトが流れ込む危険があります。
  その一方で、今、どこで、どんな形で排出権のクレジットが生み出されつつあるのか、それを把握するのは大変な作業です。一つ一つ、プロジェクトの説明書を英文で読まなければわかりません。
 しかしそのようなことを考えずに、国連機関がお墨付きを与えたのだから、何も問題ない、と考えるべきなのでしょうか。更に日本政府による「京都メカニズム情報プラットフォーム」というサイトもありますが、こちらはCDM促進のための業界向けの情報提供にとどまっています。
 しかし本来自ら解決すべき問題を押しつけている「製造者」としては、ちゃんと、どこでどのようにそのクレジットが生み出されてくるのか、知ることが必要なのではないでしょうか。
 私たちがCDMという仕組みに頼ることで、「世界のどこかにダム開発が押しつけられ、反発している住民がいる」という事実と、それに対する責任を同時に担っていくことも求められていると考える必要があります。
 CDMの温暖化対策としての有効性も含め、京都会議の議長国であった日本の責任は重い。

 開発と権利のための行動センター
 青西


  更に関心のある方へ
 参考資料・サイトなど
1)Failed Mechanism: How the CDM is Subsidizing Hydro Developers and Harming the Kyoto Protocol
December 2, 2007  
http://internationalrivers.org/files/Failed_Mechanism_3.pdf
2)Bad Deal for the Planet: Why Carbon Offsets Aren't Working...and How to Create a Fair Global Climate Accord
http://internationalrivers.org/en/node/2826
3)Generating Conflict:Dams are rejected in America as too destructive. Yet they are still promoted in Latin America. Why?  
 http://www.newsweek.com/id/160039
4)ガーディアン紙のサイトでCDMを検索するとCDMを批判的に検証した記事が多数出てきます。
http://www.guardian.co.uk/
5)Transnational Institute (TNI)
http://www.tni.org/index.phtml?&lang=en
このサイトのEnvironmental Justice
また carbon trade watch  http://www.carbontradewatch.org/

CARB&lang=&text00=&text10=&menu=11c
付記:水力発電ダム以外にも、アグロ燃料振興と大規模プランテーションの拡大など、CDMに関連する問題は多岐に広がっています。またここであげた中南米以外にも世界中で進行中です。この中から今回は水力発電ダムの問題に焦点を当てています。
 

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