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2009/02/06

ボリビア新憲法概要

 この報告に向けて、この憲法案を全ての条項に渡って、詳細に読み込めたわけではないですが、どのような憲法なのか、興味深い点などを紹介していきます。現在の日本社会のあり方を振り返りつつ読んで頂ければと思います。
(この原稿は日本ラテンアメリカ協力ネットワーク のニュースレター向けに書いたものですが、ニュースレター上では不要な部分の掲載もありましたので、そこを省略して掲載しています)

●多民族共同体の権利に基づく社会的統一国家
ボリビア国が多民族国家であることを明記。 
「植民地国家、共和国、そして新自由主義国家を過去のものとして、私たちは多民族共同体の権利に基づく社会的統一国家を共に建設するという歴史的な挑戦に取り組むものである。」(前文)
 「植民地期以前からの先住民族の存在と、先祖伝来のテリトリーの支配に基づき、国家の統一性の枠内において、自決権を保障」(第二条)

●多言語(第五条)
 スペイン語に加えてすべての先住民族言語(三六)が公用語と認められ、スペイン語に加えて、もう一つの言語を利用することが義務とされる。

●倫理―モラル 「良き生き方」(第八条)
  「良き生き方」というものが、憲法の中でたびたび使われている。これはアンデス地域の先住民族運動が取り上げてきた理念であり、エクアドルの憲法においても重要な要素となっている。よりよい生活という、個人主義的な発展性を目指すのではなく、調和のとれた共存を意味するものと理解される。
「国家は多元的社会における倫理-モラルの原則として次の原則を取りあげ、促進する。ama qhilla, ama llulla, ama suwa (怠けず、嘘をつかず、泥棒をしない)、 suma qamaña (よく生きる)、ñandereko (調和的な生活)、 teko kavi (よい生活)、 ivi maraei (悪いもののない土地)、 qhapaj ñan (高貴なる道)」
 
●国家の役割の拡大
 基本的な権利を保障するための国家の役割と自然資源(地下資源)の利用における国家の役割が拡大。
国家の目的と機能(第九条)
・公正で調和のある社会の構築。多民族のアイデンティティーを確立するため、社会正義の全的な確立に基づく、脱植民地化、非差別、非搾取。
・福祉・開発・安全・全ての人や民族の平等な尊厳の擁護
・全ての人の教育・健康・仕事へのアクセスを保障すること
・自然資源の責任ある利用の促進及びその工業化の促進
 
●平和国家(第十条)
 軍隊及び軍役を保持し(第二四三、二四九条)、また自衛のための武力行使を留保しつつ、平和国家であることを宣言。また外国軍の基地も認めない。
「ボリビアは平和主義の国家であり、平和の文化と平和への権利を促進する」、「紛争や対立を解決するための方策としての武力による攻撃を拒否する」

●多様な民主主義の適用(第一一条)
 直接・参加型、代議制、コミュニティ、三つの民主主義のあり方を明記。

●基本的人権(第一五条から第二〇条)
社会的な諸権利と国家の義務や責任を明記。
・生命と身体的・精神的・性的な統一性への権利。死刑の否定。
・全ての人、特に女性が、家庭内また社会において物理的・性的・精神的な暴力を受けない権利。
・奴隷あるいは奴隷的な隷属を受けない権利。
・水と食糧への権利。また国家は食糧を保障する義務を有する
・健康への権利。国家はアクセスを保障する。
・適切な住居への権利。国家及び全てのレベルの政府は社会的な意義に基づく住居計画を促進する。
・上下水道、電気、ガス、郵便、電話という基本サービスへの平等かつ普遍的なアクセスの権利。
国家及び全てのレベルの政府は、公的もしくは共同事業体、協同組合あるいは共同体を通じて、これらのサービスを供給する責任を有する。
・上下水道へのアクセスは人権であり、コンセッションの対象とも民営化の対象とならない。

●先住民族の権利(第三〇条)
  自決権を明記する一方、協議に基づく「同意」には触れられていない。また自然資源(この場合には地下資源)の開発にかかわるコントロールも明記されておらず、生み出された利益を享受することにとどまっている。
・文化的アイデンティティーへの権利
・自決とテリトリーへの権利
・それぞれの制度が、国家の一般的な構造の一部をなす権利
・集団的な土地登記の権利
・聖地への権利
・独自の通信手段の生成と管理の権利
・その知識に対する集団的な知的所有権への権利
・関係する法的、行政的施策を前に協議を受ける権利
・そのテリトリーにおける自然資源の開発による利益を受ける権利
・再生可能な自然資源の、排他的利用の権利

●先住民族の司法制度の承認
 先住民族の独自の原則、規範に基づく、司法制度を承認し、通常の司法制度と併存するものとしている。(第一九〇から一九二条)

●仕事及び雇用への権利(第四六条)
産業における安全と衛生的かつ健康的な職場における尊厳ある仕事への権利と、公正で満足しうる条件における安定的な雇用への権利。

●子ども及び青少年・高齢者の権利
子どもや青少年が権利主体であること、また、総合的な開発のための権利を有することを明記(第五八、五九条)
また高齢者も尊厳ある老後への権利を有する。(第六七条)

●詳細に規定される地方自治
 第三部「国家の領域的な構造と組織」においては、地方自治のあり方について詳細に定めている。(第二六九条から三〇五条)
 ここではボリビアは「デパルタメント(県)」、「プロビンシア(郡)」、「ムニシピオ」、「先住民族・農民テリトリー」によって領域的に編成されているとされており、更に「デパルタメント」、「ムニシピオ」、「先住民族・農民テリトリー」、及び複数のムニシピオあるいはプロビンシアの連合体によって構成される「地域」における自治が認められている。更にこうした領域的な自治体は、憲法上同じレベルにあるものとされ、相互に従属するものではないとされている。
 特に「先住民族・農民自治」においては、「先住民族の自決権の行使としての自治」が謳われており、先住民族・農民自治体がこれまでの最小行政単位であった「ムニシピオ」と併存することが想定されている。
 またこの部においては、国家及びそれぞれの自治体の権限が列記されているが、金融、通貨政策、外交などに加えて、土地政策、炭化水素、また鉱物資源、水資源、水源などが国家の権限下に置かれることが明記されている。

●再分配と均衡ある開発
 第四部の「国家の経済的な構造と組織」においては、ボリビアの経済モデルは「多元的であり、生活の質の改善と、全てのボリビア人がよく生きるためのものである」とされている。(第三〇六条)
・経済的な余剰を、社会政策を通じて公正に再分配することを通じて開発を保障する。(同右)
・国家の経済的主権を脅かすような私的な富の
集積を認めない。(第三一二条)
・全ての経済組織は尊厳のある仕事を生み出し、また不平等の削減と貧困の撲滅に貢献する義務がある。(第三一二条)

●経済活動における国家の積極的関与
 多元的な経済とは「共同体的、国家、民間、社会・協同組合といった経済組織によって構成される」ものとされ、国家が経済的なアクターとして位置づけられている。国家の役割としては、自然資源(地下資源を含む)の管理及び工業化、上下水道の管理他、直接的な財やサービスの生産などが規定されている。(第三〇九条)

●自然資源と国家
・鉱物資源、水資源、炭化水素、森林、生物多様性などはボリビア国民の所有物であり、国家によって管理される。(第三四八条、第三四九条)
・国家は自然資源の探査・開発・工業化・輸送流通を管理・監督する。(第三五一条)
・炭化水素(天然ガスや石油)は国家管理の下に置かれ、ボリビア石油公社によって生産・流通が行われる。但し特定の事業を私企業と契約によって行うことを妨げるものではない。第三五九条他)
・水は生活のための基本的権利であり、国家は生活のための利用を保障する。第三七三、三七四条)

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