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2009/02/17

パナマ:先住民族の集団的土地所有をめぐって

 2008年12月23日、中米パナマにおける先住民族の集団的土地所有に関する手続きを定めた法第72号が施行された。これは法案411として審議されてきたものであるが、この法律がパナマの先住民族の間で期待とともに物議を醸している。

 パナマにはノベ民族、ブグレ民族、クナ民族、ナソ(テリベ)民族、ブリブリ民族、エンベラ民族、ウォウナン民族という7つの先住民族が居住し、先住民族人口は約25万人、総人口の約8.4%を占めるといわれている。憲法においては、「先住民コミュニティに必要な土地の留保と集団的土地所有を保障」しており、これまでに5つのコマルカ(先住民族テリトリー)が法によって制定されている。
 最も古いコマルカはコロンビア領であった時代に起源を持ち、大西洋岸に広がるクナ・ヤラ・コマルカである。コマルカは特別の行政区であるが、県と同等のレベルとみなすことができる。同様の位置づけを与えられているのは、1983年に制定されたエンベラ-ウォウナン・コマルカと1997年のノベ-ブグレ・コマルカである。その他の2つのコマルカ、クナ-マドゥンガンディとクナ-ワルガンディは、コレヒミエントという、県より下位の行政区分の位置づけとされている。
 しかしながら残りの先住民族やコマルカ外に住む先住民族に対して、集団的な土地所有あるいはコマルカが認められていないことが問題とされてきていた。人口3000人から4000人といわれるナソ民族は1973年から独自のコマルカの制定を求めてきている。またウォウナン民族は40以上のコミュニティがコマルカの外に取り残されたため、2000年より集団的所有地認定のための法律の制定を求めてきていた。
 こうした中で、先住民族の集団的土地所有に関する手続きを定めた法第72号が施行された。この法は、コマルカという先住民族テリトリー外に居住する先住民族に対して集団的土地所有を認め、そのための手続きを定めたものである。
 この法の概要は以下の通りである。
目的:憲法127条に準じ、先住民族及び先住民族コミュニティが伝統的に占有してきた集団的所有地を無償で取得するための手続きを定める。
手続き:農業開発省に属する国家農地改革局を通じて実施する。農地改革局に対して、先住民族の代表が申請を行う。
必要書類:申請する土地の図面、コミュニティの人口の証明書、内務・法務省の先住民族政策局が発行する当該コミュニティの存在を証明する証明書
集団的所有地:不可侵、移転不可能、差し押さえの対象とも、譲渡の対象ともならない。
自然保護区:土地が自然保護区国家システムの一部をなす場合には、環境省は、コミュニティの伝統的権威と、自然資源と持続的利用とコミュニティ開発のための計画を実施するために、行動と戦略について調整するものである。
事前の同意:先住民族及びコミュニティの、事前の情報に基づく、自由な同意を保証するため、政府及び民間の機関は、その地域で実施する計画・プログラム・プロジェクトについて伝統的な権威と調整するものである。
政府:行政府は内務・法務省を通じて、政令によって、伝統的な組織、文化、また集団的所有地の所有権者として伝統的権威を承認するとともに、これらと、国家の権威者との調整手続きを定める。
資金:国家は土地の境界画定に必要な資金を差し向けるものである。
第17条:内務・法務省は、省令によって、ボカス・デル・トロス県のチャンギノーラ地区のテリベ先住民族コマルカ・コレヒミエントの組織構成を採択する。

 大枠から見ると、既に憲法で定められていた先住民族の集団的土地所有の手続きを定めた法律であり、先住民族の権利の保障という点では前進であると考えることができる。先住民族諸組織も、特別委員会の設置を求め、法案作成に関与してきたという。このような点からもこの法律は先住民族の権利の確立に資するはずのものであった。

 しかしながら審議の後半に入って、突如、上記の第17条が追加されたことがナソ(テリベ)民族の反発を買うこととなった。もともとナソ民族はコマルカの制定を求めており、この法律の審議の早い段階から、この「集団的土地所有に関する法律」の枠内に押し込められることに懸念を示していた。昨年10月末に開催された米州人権委員会の公聴会でも、あらためてコマルカ制定を求めてきた(このことが逆に政府を刺激した可能性も否定できない)。
 こうした中でこの第17条がナソ民族との協議も踏まえずに突然追加されたのである。この条文によってナソ(テリベ)民族のコマルカがコレヒミエント(下位の行政区分)として認められることになったとも前向きに考えることもできるかもしれない。しかしこの条文は法第72号との関係も明記しておらず、さらにはこれまでコマルカがそれぞれ個別の法律で制定されてきたことをかんがみると、極めて拙速な規定に思われる。

 12月12日付けのナソ民族の声明文は次のように伝えている。
「この法律は、私たち民族の伝統的かつ真正な法的原則を踏みにじるものであり、政府が尊重しなくてはならないはずの、私たちの引き継いできた権利を無視し、侵害し、ナソ民族の伝来のテリトリーを奪うものである」
「ナソ民族は、35年以上にわたって、私たちの絶滅を避けるために、独自の文化・伝統・伝統的政治構造に基づいた意思決定を実現しうるようなコマルカの制定を求めてきており、『集団的土地所有』という枠組みに入れられることを拒否する。これはナソ民族の希望を満たすものではないし、憲法に定められた権利を考慮したものでもない」
「コレヒミエントという位置づけは協議されたものでもなく、私たちの自治権の発展を阻害するものである。私たちの伝統的な政治的権威の選出方法を改変するものであり、伝来の習慣や文化、伝統的権威を傷つけ、変化させるものとなる」
「ナソ民族はナソ―テルディ・コマルカの制定を定めた法の承認を求めてきており、この『先住民族の集団的所有』の法に含まれることを望んではいない」

 ナソ民族にとって、ボカス・デル・トロス県の中のコレヒミエントという位置づけでは、民族のテリトリーをカバーすることはできず、伝統的な政治機構の維持が危機に瀕することに加え、ナソ民族にとっての重要な歴史的聖地も外に置かれてしまうという。

 こうした状況に直面し、ナソ民族は1月にも最高裁判所に対して違憲訴訟を起こすということである。この第17条に対抗する取り組みへの支援要請もナソ民族組織から開発と権利のための行動センターに届けられている。

 ナソ民族は、ボンジック川に計画されているダム建設や近隣の牧畜業者によるテリトリーへの侵入と暴力的なコミュニティの破壊など、高まる周辺社会からの圧力に抵抗を続けている。しかし2004年から進められているテリベ川支流のボンジック川におけるダム建設計画は、コミュニティと伝統的な権威の分裂を引き起こしている。またこの1月には牧畜業者である「ガナデーラ・ボカス」社の重機が、ナソ民族のサン・サン・コミュニティに侵入し、住居を破壊するという事件も発生した。
 
 こうした事態からナソ民族を守り、ナソ民族が独自の開発のあり方を模索し、実現していくためにはナソ民族のテリトリーを適切に承認することが不可欠である。

 開発と権利のための行動センター
 青西靖夫

 先住民族の10年News第151号(2009/2/14発行)に掲載した記事の転載です。 
続報(ブログ http://cade.cocolog-nifty.com/ao/2009/02/post-fa1c.html) 
3:ナソ民族、テリトリーの権利を侵害しているとして法第72号、第17条について違憲審査を求めて提訴。
 2月6日、ナソ民族は新たに制定された法第72号第17条がナソ民族のテリトリーの権利を侵害しているとして、違憲審査を求めて提訴。集団的土地利用を定めた法第72号については、2月14日発行予定の先住民族の10年市民連絡会のニュースレターに記事を投稿している。
    

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