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2009/03/17

内戦が終わったにもかかわらず、いまだ「戦争中」なのか:グアテマラ

 内戦終結から13年がたった今、グアテマラの人権状況は危機にある。人権擁護団体は、相次いで、現在の状況を戦争と例える報告書を発表している。36年間にわたって続いた武力紛争がただ名前を変えただけで、「戦争」が続いている、「新しい戦争だ」と指摘している。
 
 ここではミルナ・マック財団が昨年12月に公表した報告書「グアテマラにおける<新しい戦争>の枠組みの中での、不安定と治安面での統治能力の喪失」の抄訳に、いくつかの資料の情報を加えて現状を報告する。(1)

I.<新しい戦争>
 強力に武装した犯罪組織が現在の「戦争」の主役である。彼らは上納金を要求し、誘拐し、そして公共交通機関の運転手を次々に殺害している。彼らは違法に、闇市場で入手した武器を利用しているが、政府は防衛省内部に武器弾薬管理局という専門部局を設けているにもかかわらず、そのコントロールができずにいる。犯罪組織は犯罪による資金と、正規市場あるいは闇市場を通じて容易に武器が入手できる状態の中で、暴力集団を育て上げ、縄張りを支配し、権益を防衛し、住民を脅かしている。こうした闇の治安組織は、組織犯罪の権益を邪魔する者を、コミュニティ・リーダー、新聞記者、政治家、そして司法当局者を脅迫し、殺害し続けている。
 このような闇の組織は、軍人や、現役そして汚職で解雇された警察官をリクルートし、闇の治安部隊を組織している。特に膨大な資金を投入して育てている軍の特殊部隊、カイビレスのメンバーが利用されている。
 この他に、マラスやパンディジャス(ならず者)がいる。彼らも武装し、首都の街区で恐怖をまき散らしている。ゆすり、要求に応えなければ殺害し、自分たちの縄張り内に住む若い女性たちを暴行し、仲間に入ることを強要する。
 これらの犯罪組織には武器が容易く供給され、そして疑うことなく利用されている。武器の流通にはほとんどコントロールが効かない状況であり、犯罪組織はどのような武器も容易に入手することができる。1999年から武器弾薬の管理に関する法案が議会で審議されているか、業界団体の圧力の下、いまだ法律は制定されていない。

付記1)Instituto de Enseñanza para el Desarrollo Sostenible(IEPADEZ)の報告書は、グアテマラにおいて正式に所有されている火器は25万丁にのぼるという。これ以外に違法に所持されていると思われる火器が約80万丁存在すると指摘している。殺人事件の死者の8割はこうした火器によるものである。(2)
                                                                                
 しかし現在のグアテマラには、このような犯罪に立ち向かっていくことができる司法制度も治安制度も存在していない。警察は脆弱で、汚職にまみれている。警察機構は国家に見放され、住民からは猜疑心と怯えをもって突き放されている。確かに、ここ18ヶ月間、犯罪に手を染めてきた警察官の浄化の取り組みが進められてきたが、それは不十分であり、ほとんどの場合は、せいぜい解雇されるだけで、法的な処罰すらなされていない。大衆の前にその腐敗しきった姿をさらしただけのことである。

II.暴力と犯罪の様相
 この「新しい戦争」の中で、一般犯罪、組織犯罪、マラス、そしてパンディジャスは暴力と犯罪をはびこらせ、治安制度を崩壊に導き、更に中央政府の不安定さの一因となってきた。2008年1月から11月に約5000人が殺害され、ここ5年間の平均で10万人につき46人が殺害されている。(日本は10万人に約1人であり、グアテマラは中南米でも最も殺人件数が高い国の一つである)影響の大きな犯罪に直面する中で、癒しがたい影響が引き起こされつつあり、個々人の安全と生命、財産が危険にさらされているだけではなく、民主的な政治モデル自体が危機にひんしている。

III.特記すべき事件
 このような暴力や犯罪はここ12年余りで広がってきたものであるが、現在最もおぞましいのは公共交通機関、バスの運転手や助手の殺害であるが、この他にも誘拐、ゆすり、麻薬密売、そして闇の部隊による処刑などの問題も存在している。

付記2:2月に公表された人権組織GAMの報告書によると、ここ14ヶ月で155人の運転手が殺害されたが、逮捕された容疑者は3人にすぎないという。さらにマラスによるゆすりの対象として教員が狙われるケースが出てきており、この2ヶ月で8人の教員が殺害されたという。(3)

 麻薬密売も広がりつつあり、グアテマラは域内でも主要な密売ルートとなり、関連する暴力も増加し、また若者への麻薬汚染も広がりつつある。ここ最近のいくつかの事件がこうした状況を白日の下にさらすこととなった。
1-2008年3月25日、サカパ県にて麻薬密売人同時の銃撃事件があり、12人が死亡
2-2008年11月8日、同じくサカパ県にて、ニカラグア人観光客15名と1名のオランダ人の乗ったバスが焼かれる。
3-2008年11月30日、ウエウエテナンゴ県のサンタ・アナ・ウィスタでの密売人同士の抗争で、17人が死亡
 
 これらに加えて組織犯罪と結びつき、なおかつ相互につながっている事件として次のものがある
1-2007年2月 エルサルバドルの中米議会の議員殺害
2-2007年2月 この事件に関与しているとされて逮捕された元警官の刑務所内での処刑
3-2008年4月  誘拐対策局の(元)局長殺害
4-2008年7月  これらの事件を扱っていた予備検事の殺害
5-2008年10月 前記の元警官処刑に関与したと見られる若者の逃亡を幇助した女性が刑務所内で殺害される
6-2008年10月 上記の事件の数日後、同じ女性刑務所の所長殺害
7-2008年10月 刑務所内暴動のさなかに、元警官処刑に関与したとされる容疑者の刑務所内での殺害

 マラスや組織犯罪の広がり、国家制度の弱体化は多かれ少なかれ中米域内各国で見られるものである。しかしグアテマラにおいて問題を深刻化させているのは、犯罪組織のメンバーが治安関連の政府機関、司法府、行政府、立法府に浸透していることである。こうして汚職の構造と不効率が再生産されていくのである。

付記3:GAMの報告書によると、2006年1月から2008年10月のここ34ヶ月間に公訴された数は671889にのぼるが、裁判で判決まで出された事件は6パーセントにすぎない。(3)

 もう一つの暴力の問題としては、移民に関連する事件がある。国境を越えて職を得ようとするもの、特に女性と子どもは深刻な人権侵害にさらされる。奴隷的な状況に置かれ、売春を強要されといった非人間的な搾取を受けるのである。

IV.現状と戦略の乖離 
 こうしてグアテマラでは年間に6千人近くが殺害されているが、ここ3ヶ月ほどの間に、治安・司法面において国家が統治能力を喪失し、また信頼感も急速に失われている。和平協定以来、司法部門の強化などに多くの資金が投入されたにもかかわらず、改善はされなかった。1997年に設置された国家文民警察の設置と改革プロセスは2000年には停滞し、専門的な人員は欠如し、公共秩序を保証する能力はない。

V.危機の中での政策と前進 

 警察を管轄する内務省ではこれまでも改善に取り組んできたがうまくいっていない。警察の強化のために警察学校の増加、人員増、などが必要とされている。現在18000人程度の警官の数を3万人にまで増やそうという計画もあるが、一朝一夕に実現するものではない。しかし十分な予算もなければ、給料も安く、危険な職業である警官を志す者も多くはない。

 また制度の脆弱さに加えて、警察の弱体化を狙った計画的な動きも存在するのではないかと思われる。この中で内務省や警察の権威失墜とともに、軍や民間警備会社のスペースを広げるといった狙いがあるのではないか。


付記4:民間の警備会社は5万から6万、非正規のものを入れると15万にも達するという。こうした規制やコントロールも十分ではない民間の警備会社の増加は、権利の保障が不平等になるだけではなく、容易に組織犯罪と結びついていくこととなる。(4),(5)

 V.I 軍と市民の安全
 治安の悪化を前に、治安維持のための軍の参加を求める声がある。しかし軍の参加による治安維持という方向は避けるべきである。治安維持への軍の参加はあくまで一時的、側面的なものに限定し、明確に規定すべきである。警察の弱体化を放棄し、軍に委ねていく、あるいは民間のサービスに委ねていくという方向に陥ることは避けなければならない。安全を保証するというのは国家の重要な役割であり、これを放棄することなく、文民警察の強化に取り組みことが重要である。

付記5.軍に対して172の自治体から出動要請が出ているという。しかしこの背景には元自警団等の声が反映されているという指摘もある。(6)

 まとめ:開発と権利のための行動センター 青西

この記事は1)の報告の抄訳を中心に、その他の資料を利用して整理したものである
1)Inestabilidad y pérdida de gobernabilidad en el sector seguridad,en el marco de una “guerra nueva” en Guatemala   Fundación Myrna Mack,2008.12
2)Armas pequeñas y desarrollo en sociedades post conflicto,IEPADEZ,2006  http://www.iepades.org/Publicaciones.html
3)Informe sobre la situación de derechos humanos y hechos de violencia durante los meses enero y febrero 2009,  GAM, 2009.2
http://www.gam.org.gt/public/publi/pdf/Informefebrero2009.pdf
4)10 years without war…waiting for peace:The State of Compliance with the Peace Accord on Strengthening Civilian Power and the Role of the Armed Forces in a Democratic Society, PBI,2007
http://www.pbi-guatemala.org/field-projects/pbi-guatemala/publications/special-reports/?no_cache=1
5)" Empresas de seguridad privada proliferan en tiempos de Paz",Inforpress Centroamericano. 2007.03.30
http://www.albedrio.org/htm/articulos/s/sgiron-015.htm
6) "Seguridad interna: fuerzas castrenses ganan terreno",Inforpress Centroamericano. 2008.02.27


 3/21付記:議会で審議されていた武器弾薬の管理に関する法は再び審議が中断しているとのことである。ラ・オラ紙によるとライセンス当たり月400発で合意された弾薬の購入上限が、月1200発に密かに改変されたとのことである。
http://www.lahora.com.gt/notas.php?key=46052&fch=2009-03-19
http://www.prensalibre.com/pl/2009/marzo/20/302864.html

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