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2009/10/07

エクアドルの水法案について(10/19追記・修正)

新しい水法案を少し読んでみました。水関連はあまり触れたことがないので、間違っていればご指摘ください。

 2008年10月に公布されたエクアドル憲法の第12条は、「水への人権が本源的なものであり、放棄することはできないこと。水は公共の利用のための国家の戦略的な財産であり、生命のために不可分、不可侵、差し押さえのできない、かつ必須のものである」と定めています。
 更に、第314条において、「国家が飲料水や灌漑用水といった公共サービスの供給に関する責任主体であること」、第318条において、「全ての形式におけるプリバティサシオン(Privatización私有化・民営化)を禁止」しています。またこの条項において、水に関する業務は、公的(pública)あるいは共同体(comunitaria)によってのみ行われると定められ、浄化、飲料水や灌漑の供給という公共サービスは国家あるいはコミュニティ法人によってのみ行われるとされています。
 また国家は水資源の計画と利用の直接かつ唯一の責任機関を通じて、人の利用、食料主権を保障するための灌漑、生態系保全のための流水、生産的活動という優先度に基づいて利用されると定められています。

 水へのアクセスの権利を定めているだけではなく、民営化の禁止や共同体による管理を定めているといった点でこの憲法における水に関する規定は注目されますが、更に、水の利用の優先度の中で、生産的活動を最下位に定めていること、その上に生態系を保全するための流量(生態流量:caudal ecologico)が定められていることも重要な点です。[1]  

 この新憲法に基づいて、行政府から新しい水法案、正式には水資源と水の利用と活用に関する組織法”LEY ORGÁNICA DE RECURSOS HÍDRICOS, USO Y APROVECHAMIENTO DEL AGUA "が提出され、現在議会にて審議が行われています。[2]
 この法案は憲法に則って水への公正なアクセスを保障することを大きな目的としていますが、更に利用者の水管理への参加を促すこと、水系ごとの管理をすすめることなども目指しています。また水分野の政策責任者を大統領と定め、水分野の政策の唯一の担当機関として「水専任機関」を設けることを定めています。なおこの法案が扱う水資源には河川などの表面水だけではなく、地下水、水源、河床も含まれています。[3]

 水法案の第1条、第2条では、「水は国家の戦略的な財産」であることが定められ、中央政府の排他的な管理のもとに置かれるとされています。[4]第3条では水のプリバティサシオンの禁止が定められ、「水はいかなる商業的な合意の対象ともならないこと」また全ての形の水の私有化が禁止されています。また第7条で水管理業務は公的機関あるいはコミュニティ、共同体的組織によることが定められています。
 第21条からは「水への人権」が定められています。清浄で十分な水にアクセスする権利を定め、この権利を基本的かつ不可分なものと定めています。更にこの権利は未来の世代によっても行使されるものだと明記しています。[5]第28条は、水への権利は、日常生活のために地下水や表面水を手動で利用することの自由を含むものとされています。
 第31条から第35条では、コミュニティや先住民族の「集団的権利と慣習的な利用」について定められています。しかし「この法律の定めるところに従ってその権利を行使できる」とされており、また第34条では「認可された流量」に関しての分配については、その慣習を尊重すると書かれています。第69条から第75条において、水力発電や鉱業向け用水などについて、国家開発計画に従って水の使用認可を与えるという部分とあわせて考えた時に、先住民族コミュニティがどこまで自分たちのテリトリーにおける水利用について決定できるのか、曖昧な点が残っています。憲法で優先度を高く定められている分の流量(生活用水等)を、「合理的」に算定して、確保した後は、国家開発計画に従って配分されてしまう可能性もありそうです。
 第36条から第41条は「利用者の参加」について定められています。利用者が水系の水利用計画などに参加できるとされていますが、どこまで決定権があるのかは明記されていません。これは別の市民参加について定めた法に基づくということです。また流域審議会や市民監査機関の設置などを通じても市民参加を促していくとされています。
 第50条では、協議について定めています。水量・水質・環境への影響などを引き起こす恐れのあるプロジェクトについては、協議を行うこととされています。その先の詳細は、別に定める市民参加に関連する諸法に基づくとされています。
 第64条からは水の経済的活用について記されている。「水担当機関」が、自然人もしくは法人、公的セクターあるいは民間セクターの機関などに対して、水の経済的活用を認可できると定めている。続けて水力発電、鉱業などについて定めています。
 第90条から第100条にかけてはコミュニティによる水管理について定めています。生活用水や自給用及び食料主権確保ののための灌漑用水に関して、共同体的な管理の重要性を認めるとともに、促進するものとしています。またこのコミュニティによる水管理が民主的に運営され、かつ水の私有化の隠蔽に使われないようにという規定もなされています。更に、第93条ではその成員が経済的な目的のために水を利用している場合には、コミュニティによる管理は認めないとされています。
 経済的な水利用に関しては、全て国家の「水専任機関」の管理下に置かれることになるようですが、これがコミュニティによる管理とどのように整理されていくのか、ちょっとわかりません。
 この点で第179条以下に定められている「流域審議会」の設置とそこでの調整作業というのが重要な役割を果たしていくことになるのかもしれません。

 さて、この法案に関する批判点は次のようなものです。
1)私有化・民営化を禁止しているにもかかわらず、水力発電や鉱業などにおいて民間に対する利用権設定が認められていること。
2)水利用の優先度が憲法で定められているにもかかわらず、国家開発計画に従ってその優先度を変更することができるという規定が存在すること。
3)先住民族の権利が十分に認められていないこと。

 こうした中で10月5日の合意では、議会の特別委員会がコミュニティと、水法などの重要法案について、慎重を期すべき点について意見交換を行うという方向が合意されており、これは重要な点だと思われます。

 新しい水法案は水への権利を定めるなど非常に興味深いものですが、一方で「合理的な開発計画」の元に、コミュニティの声が封殺されてしまうのではないかという危機感を覚えます。そうした中で、この法律でも定めている市民参加のあり方が重要になるのではないかと思います。この点について定める市民参加関連法の動向にも注目する必要がありそうです。

 開発と権利のための行動センター
 青西

*今後時間をみて、追記修正する予定です。 

[1]生態流量:caudal ecologico
 日本でどのように定義されているのかはっきりわかりませんが、「流域生態系を維持するのに必要最低限の流量」と言えるかと思います。水力発電や工業用水など産業用の利用よりも生態系の保全が重視されているというのは重要な点であろうと思われます。水法案では第17条で、全ての流域で不可侵であり、必要とされる流量を守ることとされています。この規定でダムの存在自体が否定されるのではないかと私は考えています。

[2]法案についてはSecretaria Nacional del Aguaのサイトを参照のこと
  http://www.senagua.gov.ec/
 Usoは人間の消費などの、生命の維持や食料主権の保障に必要な水利用(第54条)、Aprovechamientoは産業的な水利用に対応している。(第64条)

[3]日本では水については憲法上の規定はなく、法律上も多数の法律で規定され、所管する省庁も複数にわたっているのとは大きな違いです。河川の管理は、河川法に基づいて国土交通省が、飲料水については水道法に基づき厚生労働省が、水質汚濁については環境省、また農業用水は農林水産省、工業用水は経済産業省の所管となっています。
 例えば次のサイトを参考に http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/b_about_us/about_us01.html
 また「地下水関連法制度とこれまでの地下水政策」についてはこちら
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/chikasui/seisaku.html

[4]水法を巡ってしばしば紛争の生じるグアテマラでは(憲法上の規定では、水は全て国家に帰属するとしても)中央政府に水管理の権限を集中するということ自体が、先住民族コミュニティの強い反発を招く規定となりうる。エクアドルの水法案では第2章に先住民族の集団的な権利が規定されている。

[5]第47条でも未来の世代に対する国家の義務が明記され、国家とその機関は未来の世代に十分かつ健康的な水を確保するための戦略や統合的なプログラムを適用していく義務があるとされています。

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