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2009/10/21

協議に関する報告:先住民族の権利に関する国連特別報告者

  今年の国連人権理事会に提出された、「先住民族の人権状況と基本的自由に関する国連特別報告者」であるジェームズ・アナヤ(James Anaya)氏の報告書は、主要テーマとして「協議を行う義務」について取り上げている。[1]
 「協議」はグアテマラをはじめとして、中南米の先住民族運動においても非常に大きな課題となってきているので、ここでこの報告書の内容について少し整理する。
 報告書の全57項のうち、第36項から第57項までがこのテーマに費やされている。
36.国家は、先住民族に影響を与える決定について、先住民族に協議を行わなくてはならないという義務を適切に履行していない。適切な協議の欠如が先住民族との対立的な状況を引き起こしている。
<法的基盤>
38.「先住民族の権利に関する国際連合宣言」では次のように記されている。
「国家は先住民族に影響を及ぼし得る立法的または行政的措置を採択し、実施する前に、彼/女らの自由で事前の情報に基づく合意を得るため、その代表機関を通じて、当該の先住民族と誠実に協議し、協力する」
39.同様に国際労働機関の第169号条約においても、先住民族に影響を及ぼしうる計画やプロジェクトに際して、合意を得るために、誠実な協議を行うことを求めている。
40.国連の人種差別撤廃委員会も各国の政府に、先住民族に対する協議を行うように要請している。この他、米州人権裁判所も、米州人権条約に基づいて、協議を行う義務を明確にしている。
41.協議を行うという義務は、先住民族の自己決定権という根源的な権利、また民主主義そして人民主権に関連する原則から派生するものである。自己決定の権利は、先住民族が自らの権利を全的に行使するためには不可欠のものである。
 先住民族に影響を与える恐れのある決定のプロセスに際して、先住民族と協議を行うという国家の義務は、決定プロセスから排除されてきた歴史的なパターンに幕を引くものである。またこの先、先住民族に対して重要な決定が押しつけられないようにするものであり、先住民族の人びとが、その文化とともにこれまで根付いてきた土地での、異なる民族としての生活を繁栄させていくことを可能にするものである。
42.国家の決定が、先住民族の特有の利益に影響を与える場合には、先住民族の異なる文化的・歴史的特質に基づき、特別の、様々に異なる協議の手続きが必要とされる。政治的な舞台から阻害されてきた先住民族にとって、通常の民主的手続きや代表制は、先住民族特有の関心に対応するためには不十分である。

<協議を行う義務を適用する状況>
43.協議は、国家のある決定が、社会の他の個人には感じられないような形で、先住民族に影響を及ぼす恐れがあるときに、適用されなくてはならない。例えば土地や資源に関する法律は、一般にも影響を及ぼすが、先住民族の伝統的な土地所有形態や関連する文化に対しては、特別な形で影響を及ぼすものである。そこでこうした場合には協議を行わなくてはならない。
44.協議は、既に認められている権利や法的な権限がおびやかされる時に限られるわけではない。ダム開発や自然資源の採掘などによって影響を受ける先住民族の土地が、既に国内法によって認められている時に限って協議が必要だ、と考える国家があるが、そうではない。先住民族の特別な利益がおびやかされる時に、協議が必要とされるのであって、その権利、土地への権利などが法的に承認されているかどうかは問われるものではない。(ここではグアテマラにおけるILO169条約に関する裁定を引用している)
45.テリトリーにおける自然資源の採掘など、特定の先住民族や先住民族コミュニティに影響を及ぼす事業に際しては、影響を受けるグループの積極的な参加を保証し、また人びとの関心への特別に配慮した協議プロセスが必要である。

<合意に達するための、あるいは同意を得るための、誠実な協議の実施に必要とされるもの>
46.協議とは合意を得るために行うものであり、影響を与える決定に対する「拒否権」ではない。ある決定の前に、相互に受け入れられる合意に至るための交渉であり、既に行われた決定、あるいは決定されつつある事項に関して、情報を提供するためのものではない。
47.先住民族に対して、直接的に、かなりの影響がある場合には、協議だけではなく、合意を得なくてはならない。宣言においても、二つのケース(強制移住と有害物質の貯蔵・廃棄)において合意を得ることを義務としている。米州人権裁判所でも、スリナムのサラマカ民族のケースにおいて、民族のテリトリーに大きな影響を及ぼす開発計画に際して、協議を行うだけではなく、事前の、情報に基づく自由な合意を得なければならないという判断を下している。
48.先住民族が、開発プロジェクトに対して拒否権を持つのかどうか、という議論ではなく、全ての利害関係者の合意を得るために、可能な全てのことを行うための協議手続きを策定する必要がある。
49.国家の協議を行う義務というのは、これまで先住民族に決定を押しつけてきた歴史的なモデルと、先住民族の生存の危機を終わらせることにある。協議と合意の原則は、それぞれが自分の意志を相手に押しつけるのではなく、相互に理解することに努め、合意によって決定を下すことにある。

<合意に向かうための信頼醸成のための要素>
50.国家にとって、合意による決定のための誠実なる取り組みは、「手続きについて、合意を得るために努力をし、またそれについて幅広く情報を提供し、信頼感を構築することである」。更に、国家や企業などと比べ、先住民族は一般的に、政治的影響力や資金、情報へのアクセス、教育などの点で不利益を有している。
51.信頼感を醸成するためには、協議のプロセスもまた合意の結果でなくてはならない。また国家は、先住民族に対して、資金や技術的な支援を提供することを通じて、権力の不均衡を乗り越えなくてはならないが、同時に、そうした支援を通じて、先住民族の協議に対する立場に影響力を行使しようとしてはならない。
52.先住民族の独自の代表制度とその決定を尊重しなくてはならない。また先住民族も独自の制度を改善し、協議のプロセスを容易にするような代表制度を整備する必要があるであろう。
53.先住民族の土地に影響を与えるような開発プロジェクトや自然資源の採掘などの場合に、先住民族が情報に基づく、自由な決定を下すためには、プロジェクトが引き起こす影響なども含め、客観的かつ完全な情報を受け取る必要がある。どのような結果が予想されるのかを知ることができるよう、国家が社会・環境影響調査を行う必要がある。影響を受ける先住民族グループは、協議の最初の段階でこの調査結果を知る必要があり、またその結果を理解し、意見を表明し、憂慮される点について情報を得るための十分な時間がなくてはならない。またこうした事業における、合意のための協議プロセスにおいては、被害による補償や緩和策だけではなく、利益の公正な配分についても検討されなくてはならない。

<協議を行う義務と企業の責任>
54.民間企業などによって自然資源の採掘などが行われる場合も、協議を保障し、それを実施する責任は国家にある。国家こそが、協議の実施を含め、先住民族の人権を保障する義務を負うのである。よって民間企業やその他の機関にその義務を委ねることはできない。また協議はできる限り早い段階から行われなければならず、民間企業にコンセッションを与える前に実施されねばならない。  
55.実際には民間企業に協議の実施を行わせるというケースが多々存在している。
56.企業のポリシーとして、先住民族、特に協議に関する国際的な規範に、その活動を適合させるべく努めるべきである。
57.多くの企業が、先住民族の権利に関する国際法について適切な理解を欠いている。また企業は、国家の怠慢による、協議の不履行など、先住民族の権利への侵害などに荷担しないようにすべきである。また国家も企業活動が、先住民族の権利を完全に尊重するよう、常に監視しなくてはならない。

[1] PROMOCION Y PROTECCION DE TODOS LOS DERECHOS HUMANOS, CIVILES, POLITICOS, ECONOMICOS, SOCIALES Y CULTURALES, INCLUIDO EL DERECHO AL DESARROLLO
Informe del Relator Especial sobre la situacion de los derechos humanos y las libertades fundamentales de los indigenas, James Anaya

A/HRC/12/34 
http://daccessdds.un.org/doc/UNDOC/GEN/G09/145/85/PDF/G0914585.pdf?OpenElement
英語 
http://daccessdds.un.org/doc/UNDOC/GEN/G09/145/82/PDF/G0914582.pdf?OpenElement

 グアテマラだと、「協議」は、拒否権の発動というよりは、とりあえず「拒否」のアピールとして行われている感じがあります。法的には拘束力がないと憲法裁判所で裁定が下されても、とりあえず、協議に関する国内法の整備は進まない中で、意思表明をしておかなければ何が起こるかわからないという、という中で、コミュニティが主体的に「協議」を行っています。
 
 グアテマラでは、「環境影響調査」にしても、住民がアクセスできるような状況にはなく、それこそ専門家でなければ読んでもわからないような中身で、かつ意見書提出の期限は限られ・・・という状況です。
 それでもコナビグアの集団的権利プロジェクトの担当者は、そういうのも見て行かなくては・・・と真摯な発言をしていましたが、
 村にいても、ちゃんと地域の言葉で説明を受けられ、じっくり考え、村の中で意見交換をできるような状況+時間が提供されるのが本来の姿だろうと思います。
 
 19世紀にベラパスの土地が首都で公示にかけられ、持ち主が現れなければ大農園主に売ってしまいますよ・・・という手続きが行われたころと現在は大差ありません。

 開発と権利のための行動センター
 青西

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