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2010/06/08

「責任を持って小農を破壊しようとする『責任ある農業投資原則』」

食料の権利に関する国連特別報告者、オリビエ・ド・シュ-テル氏(オリビエ・デ・シュッター)は、現在日本政府も積極的に推し進める「責任ある農業投資に関する原則」を強く非難している。
 6月4日にProject Syndicateのサイトに掲載された記事「 Responsibly Destroying the World’s Peasantry/責任を持って小農を破壊」は、投資家とコミュニティの双方に利益をもたらすと謳っている「責任ある農業投資に関する原則」は不適当なものであると告発している。[1](下に全訳)

責任ある農業投資に関する原則は、日本政府が、世界銀行などとともに積極的にその策定を目指している自発的なガイドラインであり、次のような7つの原則(案)を含んでいる。[2]
(1)土地及び資源に関する権利の尊重
(2)食料安全保障の確保
(3)透明性、グッド・ガバナンス及び投資を促進する環境の確保
(4)協議と参加
(5)責任ある農業企業投資
(6)社会的持続可能性
(7)環境持続可能性

 しかしながら、上記の記事において、国連の特別報告者は「自発的な原則ではなく、食料への権利や、生存の糧を奪われないようにする権利など、人々の権利を保障し、政府にその履行を要求できるような原則こそが必要であること」を指摘している。また飢餓対策、貧困対策として、大規模農業、機械化農業を推し進めることは本末転倒しており、「飢餓や栄養不良は食料生産の不足によるものではなく、貧困と不平等によるものなのである。このことは世界の75%の貧困人口が居住する、農村部において特に顕著である」と述べている。
 特別報告者は、小生産者の農業の多様性、生物多様性の維持に貢献や、農村コミュニティに価格変動や気候変動への抵抗力を評価する一方で、温室効果ガスの3分の1を生み出しているような工業的な農業モデルを推進することに疑念を呈し、今回の「責任ある農業投資に関する原則」は、「社会的・環境的により持続的な農業開発に取り組んでいくのではなく、世界中の小農民を責任を持って破壊していこうとしている」と見なしている。

 補足
国連の食料への権利に関する特別報告者はその報告書において、大規模な農地取引において適用されるべき、11の人権原則を提起している。[3] この原則内容は既に、農業情報研究所のサイトで紹介されているものと同じようである。[4]

 開発と権利のための行動センター
 青西


[1]"Responsibly Destroying the World’s Peasantry" Olivier De Schutter,
http://www.project-syndicate.org/commentary/deschutter1/English
[2] 外務省: 責任ある農業投資に関するラウンドテーブル(概要)(2010/4/27)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/food_security/100430_gaiyo.html
[3] Report of the Special Rapporteur on the right to food,
-Large-scale land acquisitions and leases: A set of minimum principles and measures to address the human rights challenge-
Olivier De Schutter (2009/12/28)
http://www.srfood.org/images/stories/pdf/officialreports/20100305_a-hrc-13-33-add2_land-principles_en.pdf
[4]国連専門家 外国農地取得に関する人権法に基づく原則を提案 G8サミットで採択を(2009/06/12)
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/agrifood/overseainvest/09061201.htm 



Responsibly Destroying the World’s Peasantry
Olivier De Schutter
Published: 6 June 2010

Olivier De Schutter

世界銀行、国際連合食料農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、国際連合貿易開発会議(UNCTAD)が最近提示した七つの「責任ある農業投資の原則」は、大規模な土地投資を進め、投資家とコミュニティ双方に利益をもたらすという。しかし原則は、善意に基づくものかもしれないが、実際にはあまりに不適切なものである。

 自国の食料供給や原材料、バイオ燃料の確保、あるいは植林を通じた炭素貯留をはかる補助金を得るという目的で、民間投資家や国家が世界中で数百万ヘクタールという土地の購入や借地を開始してから数年が経過する。ウォール街の銀行やヘッジ・ファンドを含め、西洋の投資家が、土地への直接投資を、不安定な金融環境の中での安全な避難所と見なしているのである。

 この現象は大きな問題を引き起こしている。2006年以降、1500万~2000万ヘクタールの農地、フランスの可耕地面積と同様の面積が、海外の投資家の取引対象となっている。
 これは大きなリスクを伴っている。長年の慣習的な権利に基づいて、生計を支えるために利用されてきた土地が、しばしば「遊休地」、あるいは「農業向けの留保地」と呼ばれ、こうした取引の対象とされることが多いのである。「公共の利益」の名のもとに退去命令が出され、正当な補償と影響を受ける住民に対する協議などというのは、遵守されるより履行されないことの方が遙かに多い。
  
 アフリカにおいては、農村部の土地は国有と見なされることが多く、政府はまるでその土地が自分たちのものであるかのように扱っている。ラテンアメリカにおいては、大土地所有者と小農民の格差は広がりつつある。南アジアでは長年生活してきた土地を追われ、パームオイル農園や特別経済区、あるいは植林プロジェクト地などに移り住む住民が増えている。

 こうした現象に対峙するためとして提起されている諸原則であるが、これは単に自発的な履行が求められているに過ぎない。しかし、食料への権利や、自然資源からの利便を享受する権利、その生存の糧を奪われないようにする権利など、人々の権利を保障するように政府に要求することが必要なのである。この原則は人権を無視していることからして、説明責任を果たし得ないのである。

 また大農園を形成するために投資家に土地を譲渡するということと、より公平な土地へのアクセスを保証するために土地を分配するということの間での対立がある。諸政府は何度となく土地分配という目的を追求していくと約束しており、近年では2006年に開催された「農地改革と農村開発に関する国際会議」の場でその約束は繰り返されている。
 
 どのような原則が策定されるかということよりも更に根幹に関わる問題が存在している。大規模な農業投資を進めようという根拠には、飢餓対策のためには、食料生産の推進が急務であるが、農業投資の欠如がその障害となっているという考え方がある。そこで、農業への投資を促進すべきであり、科せられる規則は、投資を進めるものであっても、抑制するものであってはならないというのである。

 しかしこの分析も、また対策もどちらも間違ったものである。飢餓や栄養不良は食料生産の不足によるものではなく、貧困と不平等によるものなのである。このことは世界の75%の貧困人口が居住する、農村部において特に顕著である。

 過去において、農業開発は大規模化、資本投入型の農業を推進し、地方のコミュニティに食料を供給してきた小規模生産者への対応をおざなりにしてきた。また日増しに競争的になる環境の中で、政府は農業労働者を搾取から保護することに失敗してきた。だからこそ、今日、十分に食べることのできない人たちの70%が、こうした小農民や農業労働者だという現実がある。
 
 大規模農業、機械化された農業への移行を推し進めることでは問題は解決できないどころか、悪化するばかりであろう。大規模化され、資機材の整備された農業生産者は、競争力を持ち、市場に対して安価な生産物を供給できるであろう。しかし同時に市場価格には反映されない高い社会的な費用を生み出すのである。
 
一方で,小生産者の生産費は高くつくが、単位面積当たりの生産性は高いことが多い。土地を最大限に活用し、作目や家畜を補完的に組み合わせることに成功している。その農業は外部の投入財への依存が少なく、機械化も進んでいないが、高い労働集約性を要求するものである。
 
 もし、小生産者が市場において、大規模生産者と競合したならば負けてしまうであろう。しかし小生産者は評価されてはいないものの、高いサービスを提供しているのである。農業の多様性、生物多様性の維持に貢献し、農村コミュニティに価格変動や気候変動への抵抗力を与え、環境保全にも役立っている。
 
 大規模な農業投資は、こうした農業世界の関係性を破壊してしまうのである。明らかに不均衡な競争を深化させ、農村社会の瓦解を引き起こしかねない。
 
 農業投資が責任をもって行われなければならないのはもちろんである。多くの者が、近年の食料価格の高騰によって引き起こされた懸念を投資の機会と捉えたようであるが、機会と解決策とを混同してはならない。
 開発途上国における農業生産を再興するためには、少なくとも年間300億ドルが必要だとされている。これは世界中の国内総生産の0.05%に相当する。しかし、金額ではなく、どのような農業を支援するかということの方が重要である。力を持つ少数の経済的アクターによる大規模なモノカルチャーを促進することは、小生産者や家族経営との格差を更に拡大するものであり、また既に温暖化ガスの3分の1を排出している工業的な農業モデルを促進するということなのである。

 社会的・環境的により持続的な農業開発に取り組んでいくのではなく、世界中の小農民を責任を持って破壊していこうとしているのは残念でならない。
 
http://farmlandgrab.org/13528より 翻訳

元のサイトはProject Syndicate

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