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2011/06/15

フィリピンにおけるバイオ燃料プロジェクトが引き起こす社会紛争



17の報告会で詳細はお話しさせて頂きますが、とりあえずの報告です。

 青西


2010年4月、伊藤忠商事および日揮は、フィリピン共和国のルソン島北部イザ
ベラ州でサトウキビを原料とするバイオエタノール(54,000kl/年)の製造・
販売事業、およびサトウキビ残渣(バガス)を燃料とする火力発電(最大19MW)
による電力販売事業を開始することを公表した。[1]
 このプロジェクトはイサベラ州のサン・マリアーノ町を中心に計画されてお
り、来年3月の操業開始を目指してプラントの建設が進められつつある。原材
料となるサトウキビはサン・マリアーノ町の「遊休地」での借地契約を中心に、
11000haでの生産を目指しているものである。
 しかし現地ではこのプロジェクトに対する抗議行動が本格化し、2011年2月
には現地の農民組織などが調査団を派遣し、抗議声明を発表するとともに、関
係省庁との協議も開始されている。[3]
更に、2011年5月30日より6月3日にかけて、食料主権に関する人民連合
(PCFS)、イボン財団・国際部、アジア農民連合(APC)、フィリピン農民連
合(KMP)、また、イサベラ州農民組織(DAGAMI)などは、国際NGO 現地調査
団を派遣し、更に現地の状況を調査した。[3]

 今回、この調査団に参加する機会を得たので、現地の状況について概要を報
告する。


<遊休地>
 現地法人であるグリーン・フューチャー・イノベーション社(GFII)またそ
の子会社でありサトウキビ供給を担うエコ・フュエル社は、このサン・マリア
ーノ町をプロジェクトサイトに選んだ理由を、「マージナル・ランド」の存在
であると述べている。
 しかしながら、この「遊休地」とは、山裾の丘陵地帯において、人々が生活
し、自給用のトウモロコシやバナナ、あるいはキャッサバなどを生産している
土地であった。時に野火や台風などによって一時的に耕作が放棄されていると
しても、それは現在の世代、あるいは未来の世代の生計を安定させるための重
要な手段である。

 <土地紛争>
プロジェクト予定地では、サトウキビ生産をきっかけに土地問題が各地で勃
発している。サトウキビ生産のための借地契約が、耕作者に占有権を認めてき
た慣習地土地利用のあり方と調和しないこと。現地のエコ・フュエル社が実施
した土地測量調査が、土地の所属を巡る紛争を顕在化させるといった問題が起
きている。また今後、サトウキビ生産のための借地契約が広がれば土地所有に
関する手続きにアクセスできる人とできない人の間での社会的な格差の拡大も
広がっていくものと思われる。
 
 <不明瞭な土地所有権>
 プロジェクト対象地は複雑な土地所有権のもとに置かれている。サン・マリ
アーノ町の面積の約半分は森林と定義された国有地である。このほかにこうし
た森林地域から分割され、国有の「可処分地」と定義されている土地が存在す
る。しかしその区分は不明瞭である。
 更にサトウキビは「森林」地帯にも侵入し、国有地である「可処分地」にお
いても借地契約が進められている。これまで土地利用者に利用権が与えられて
きた、慣習的な土地利用のあり方が大きく揺さぶられているのである。更に借
地契約が行われている、あるいは行われようとしている土地の所有権が定かで
なく、今後問題が更に深刻化していく可能性がある。
 またこの地域で2000年代前半に発生した土地分配及び登記を巡る詐欺事件の
被害者を中心に、土地権を喪失するケースが多々起きており、大きな問題とな
っている。この問題を解決することなく、この地域で借地契約等を広げること
は問題を深刻化する危険があるとともに、サトウキビ生産拡大の中で土地集中
につながる危険性がある。

 <気候変動対策としての貢献?>
 このプロジェクトは直接的にはフィリピン政府の「バイオ燃料法」に基づく
自動車燃料へのバイオ・エタノール混合政策による新しい市場を狙ったもので
あるが、伊藤忠はCDMによる炭素クレジット入手も目指している。CDMについて
は今のところ十分な情報は開示されていないが、このプロジェクトでは耕作地
を排除した形でCDMの認可を狙っているようである。
 しかしながら、経済産業省の報告書によるとバイオ燃料生産において二酸化
炭素削減に実際に貢献しうるレベルは、ブラジルの既存農地におけるサトウキ
ビ生産だけだと言われている。[4]
 今回の地域のように、草地や時として林地からの転換、分散し、道路状況の
悪い斜面に位置する耕作地からの搬出に関わる燃料消費、転換された農地の代
償としての森林地への農業フロンティアの拡大などを考慮すれば、温暖化効果
ガスの排出量削減につながることはあり得ないであろう。
 
 終わりに

 伊藤忠商事による今回のバイオ燃料プロジェクトは、土地利用と所有を巡る
不安定な環境の中で進められている。現地の農民組織は事業の撤退を求めてい
る。
 それでも事業を進めるのであれば、地域社会に対する深いコミットメントが
求められるであろう。それは森林政策、農地改革、土地登記というフィリピン
政府によって長年置き去りにされてきた、非常に困難な課題に取り組む責任が
求められるのである。

[1]フィリピンにおけるバイオエタノール製造・発電事業について (2010/4/8)
http://www.itochu.co.jp/ja/news/2010/100408.html
[2]サン・マリアノ町の農民および先住民族 大規模な土地収奪に強く反対
http://www.foejapan.org/aid/land/isabela/pdf/20110223.pdf
[3]イサベラ州サン・マリアノ町における国際NGO現地調査団声明(2011/6/6)
http://www.foejapan.org/aid/land/isabela/pdf/20110606a.pdf
[4]「バイオ燃料導入に係る持続可能性基準等に関する検討会」報告書につい

http://www.meti.go.jp/press/20100305002/20100305002.html

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